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第7話 村長の屋敷

Author: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-08-06 13:33:00

「未来から来た客人を、お待ちしておりました。」

老人の言葉に、いのりの背筋が凍った。

「どういう……意味ですか?」

恐る恐る尋ねる。

しかし老人は、それ以上何も答えなかった。

「村長がお待ちです。」

ただ、それだけを繰り返す。

りひとは小さくいのりの肩を叩いた。

「行こう。」

「でも……。」

「何か帰る手がかりがあるかもしれない。」

確かに、このまま村を歩き回っても何も分からない。

二人は老人の後をついて歩き始めた。

星糖村の中心部。

そこには、ひときわ大きな日本家屋が建っていた。

立派な門。

手入れの行き届いた庭。

村人たちは、その屋敷の前を通るたび深々と頭を下げていく。

「すごい……。」

いのりが小さく呟く。

「この村で一番偉い人なんだろうね。」

りひとも静かに辺りを見渡した。

屋敷へ入ると、畳の広間へ案内される。

床の間には大きな掛け軸。

その隣には、星空と湖を描いた一枚の絵が飾られていた。

「美しいでしょう。」

不意に声が響く。

奥の襖がゆっくり開いた。

現れたのは、六十代ほどの男性。

白い着物を身にまとい、穏やかな笑みを浮かべている。

「ようこそ、星糖村へ。」

「私は、この村の村長です。」

二人は頭を下げた。

「今日は、お忙しいところありがとうございます。」

りひとは丁寧に挨拶する。

村長は満足そうに頷いた。

「旅のお二人。」

「この村はいかがですかな。」

「自然がとても綺麗です。」

いのりが答えると、村長は嬉しそうに笑った。

「それは何より。」

「この湖は、村の宝です。」

そう言いながら、お茶を勧める。

湯気の立つ湯呑み。

香ばしいお茶の香り。

どこか懐かしい空気だった。

しかし。

いのりは気づいてしまう。

村長の視線が、ときおり自分だけを見つめていることに。

まるで。

顔を知っている人を見るような目だった。

「失礼ですが。」

村長が静かに口を開く。

「お嬢さんのお名前は?」

「水瀬……いのりです。」

その瞬間だった。

村長の表情が、一瞬だけ固まる。

ほんのわずかな変化。

けれど、いのりは見逃さなかった。

「水瀬……。」

村長は小さくその姓を繰り返す。

そして、何事もなかったように微笑んだ。

「珍しい名字ですな。」

「祖父から受け継いだ名前です。」

その言葉に、村長の瞳が細くなる。

「そうですか……。」

部屋に沈黙が流れた。

やがて村長は立ち上がる。

「旅のお二人。」

「今夜は星祭りです。」

「どうか、湖へお越しください。」

「この村で一番美しい夜を、お見せしましょう。」

その笑顔は穏やかだった。

けれど、屋敷を出る直前。

いのりは廊下の奥で、村長が誰かに小さく囁く声を聞いてしまう。

「……やはり、水瀬の血か。」

その一言だけが、耳に深く残った。

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